今回はクレームに関するお話です。
飲食店は数多くありますから、お客様に選ばれる立場です。
より美味しい食事を提供したり、より良い環境を作ったり、より利便性が高かったり、日常と違う体験を付加価値とするなど、選ばれるお店となることがお店の存続に最も大切なことです。
総合的に価格に見合わないと感じれば、次回の来店にはつながらないかもしれません。
1000円の食事に1000円ほどの価値がなかったな。ちょっと割高だったかな。という感想は良くあることかもしれませんが、その他の部分、環境の良さ、利便性、面白さ等で挽回できればその感想も打ち消すことができるでしょう。
しかしながら、お客様の気分を害すのは絶対にNGです。
細かく積み上げた評価をすべて覆してダイレクトにネガティブな印象を与えてしまいます。
あの店は最悪だ。気分が悪い。二度と行かない!ということになります。
ですから接客は丁寧でなくてはなりませんし、通常無いサービスでも可能な限りはお客様のご要望に応えます。
もちろん、サービス自体が付加価値の一部でもあります。
高級店ではウエイターの身だしなみから所作まで品質を高くすることで価値を上げます。
接待を伴う飲食店では飲み物や食べ物の価格より、接待自体に価値の重みがあるでしょう。
飲食店とお客様との関係は、それら複合的な体験を提供して、対価を頂くものです。
求める側と提供する側。両者の契約が飲食店とお客様との関係です。
どちらが上でも下でもない、対等な関係であるはずです。
しかし、飲食店、小売店、サービス業等において、お客様の立場が上、お店の立場が下と認識されている方が稀にいらっしゃいます。
どうしてそのように認識をされているのでしょうか?考えてみました。
例えば
店員は丁寧なお辞儀をし、言葉も「謙譲語」を使うのは常識となっていますが、これは上下関係があるからだとは考えていません。
店は接客という業務の一環ですからビジネスマナーとして丁寧な対応をします。
一方、お客様はお店を使うのに契約先という認識はありませんよね。休日の家族や友人との飲食店の利用なんてプライベートの最たるもの。当然、お店としてもお客様にビジネスマナーを求めることはありません。気軽な対応と礼儀で全く問題ないです。会釈や「ごちそうさま」の言葉があれば十分で、ご丁寧なお礼まで頂くと逆に恐縮してしまうくらい。
一部の人はこの立場の違いによる振舞いの違いを、自分がより高い立場に居るように錯覚している可能性があります。平社員が上司に謙譲語を使う関係のように勘違いしていると思われます。
はっきり言います。これは錯覚です。考えてみてください。
魚屋さんや八百屋さんで、「まいどありぃ!」これ謙譲語の必要ありそうですか?
中華屋さんで、「チャーハンいっちょ、おまち!」これって失礼?
もう一つ。
まるで「ことわざ」の様に使われている「お客様は神様です」という言葉。これを曲解している人が多いことも意外に大きな原因です。
この言葉を使う人って意外と多いのですよ。
元々は歌手の三波春夫さんが使った言葉が流行したものですが、
「金銭を払う側が崇高な者で、もらう側は賤しい者である」という意味ではありません。
でも言葉だけ見たら、そう捉えることも出来ます。
この誤った理解を免罪符の様に考え、お店に対して客の自分がまるで神であるような気持ちでいる方も居るのです。
最後に一つ。
お客様は簡単にお店に対して悪評を流布することができます。
これもお客様側がより優位な立場に居るように感じる原因となります。
「俺はこの辺で顔が利くんだ。もし俺がこの店を悪く言えば、この辺の奴らみんなこの店来なくなるんだぞ!」
という優位に立っているという認識です。確かにお店側からすると怖いことです。
今の時代はSNS等で悪評を流すことができる事を考えると、どこぞに顔が利く必要もなく誰でも優位に立てますし、お店には大変な痛手になる。
お店としてはこのような痛手を負いたくない立場、お客様側は気に入らなければ容易に痛手を負わせることができる立場、と考えると、弱者強者という関係に似た関係性が生じていそうです。
上記3つの例を挙げましたが、いずれも上下関係を誤って認識する原因だと思います。
上下関係はないとは言っても、お店側は比較的弱い立場に居ると考えられます。
・お客様を様々な面で満足させることが次に繋がること。
・選ばれる立場であること。
・評判を落としたくないこと。
これによって難しい要求にも対応せざるを得ないケースもあるとは思いますが、だからと言って無茶な要求に頭を下げながら対応をする必要はないと思うのです。
それどころか、お店側からお客様に条件を出したり、お願いする事だってあります。お客様にはそれに従って頂かなくてはなりません。
客に条件を付けるなんて生意気!と思われるかもしれませんが、少し例を挙げればわかると思います。
靴を脱いで入る店に下足で入って「自分は脱ぎたくないのだから下足で入る!」
とか、お店のルールを破ってひどい話に見えますよね?
もう少し一般的な例だと、セルフサービスのお店で考えましょう。
空いた食器を返却コーナーに返してくださいと店内各所に書いてあるのに、そのまま置いて帰るお客さん。
セルフサービスのお店というは本来、配膳や下げ膳は客のやるべき作業です。と、利用者側に条件を付けているのです。少人数の店員で回転率を上げるために下げ膳の手間を省かせるシステムです。ほとんどの方がご存じのことと思います。それを条件としているからこその価格で提供しているのに。そのまま放置して帰るお客さん。
こういうお客さんは契約を守っていないと見ることができます。
何が言いたいかというと、お店もお客様も対等の立場で契約をしているのであって、お互い契約内容を守ってこその関係なのです。
お客様が気に入らないのでお店に行かないという選択が出来るように、お店側にもお客様をお断りする選択も出来るのです。
これを明確に理解していないと、比較的弱い立場にいるお店側は非常につらい立場になり心を病みかねません。
さて今回どうしてこんなことを書こうと思ったのかというと、
少し前に、お客様に大声で怒鳴られたからです。
その怒声の内容が理不尽に感じたためでした。
怒鳴られた時の状況を書きたいと思います。
前提として、
えんの家は席数が24席ほどあるのですが、お店の前の駐車場は8台程度で満車になります。大人数で各自車でご来店される場合、店内の席に余裕があっても店の前の駐車場がいっぱいになってしまいます。
駐車場がいっぱいになった場合は、少し離れた場所に第二駐車場を用意しており、そちらをご利用いただけますが、店の前の駐車場が満車になっている場合、せっかく来てくださったお客様は、店内の空席を確認することなく別のお店に去ってしまう事が多いです。
これはお店にとっては損失です。
で、前提を踏まえての出来事です。
大人数のグループのお客様がご来店するということで事前にご連絡を頂きましたので、電話で以下の内容をお願いしました。
「お手数ですが、大人数で各自車でご来店されると満車になってしまうので、何名かは離れた場所にある駐車場に車を置いて頂き、お店の前の駐車場は空きを残してほしい。」
お伝えした際には「はいはい」くらいで特に何も言われませんでした。
そして、ご来店当日。
あいにくの雨。
お客様はお店の前の駐車場に止めたいのは当然です。
グループの最初の方は2名で車は2台。予定の時刻の1時間ほど前に到着されました。
早速お客様に「大人数で車の台数も多いでしょうから、店の前に置く車を減らしてほしい」旨お伝えしました。
「は?後から来る人達が調整すればいいでしょ。私は嫌よこんな雨の日に!」
とのこと。まあ気持ちは分かります。
その後、続々とグループの方が集まり始めますが、お二人で乗り合わせの方が数名いらっしゃいましたが、ほとんどが1人1台の車でご来店。
途中、駐車場に入られる車に声をかけて、別駐車場にお願いもしましたが、一台たりとも離れた駐車場に止めてくださる方は居なかった。
全員集まった時点で完全満車の状態。新たなお客様の車を止める場所は全くなくなってしまいました。
そこで改めて幹事の方に伝えました。
「駐車場が完全に満車になってしまい、これでは次のお客様が入ることができない。何台かを少し離れた駐車場に移動して頂きたいのですが。」
すると・・・
「ほかの客だと!俺は客だぞ!ふざけるな!なめやがって!!そもそもそんな話は聞いてない!事前に言わない方が悪い!お前ら店員の車も止めてあるんだろうが!それを動かさずに客の車を動かせだと、何様のつもりだ!馬鹿野郎!」
この怒声を聞いて、意気消沈。それ以降お願いすることは諦めました。
この時昼の12時。グループのお客様が帰られて駐車場に空きができたのは14時近く。
この2時間の駐車場が満車の間、お客様は一組たりともご入店されませんでした。
お店を開店してから1年半。これほどの怒声で叱責されたのは初めてでした。
もちろん、今回の件は荒唐無稽なクレームとは言い切れません。
このクレームによる反省点もあります。反省点は今後改善をしていきます。
でも、とにかくこの怒声に含まれる言葉にショックを受けました。
『ああ、この人の中では客と店の立場に、明確に上下があるんだなあ。』
『この方は気分を悪くされただろうし、周りの方に「あの店は客をなめている」とか吹聴されるかもしれないなぁ・・・』
実はこのブログを最初に書いたのは、数か月前。当初、怒りと悲しみで愚痴をこぼすだけの内容だったのですが、投稿せずに置いていました。
最近動画サイトで飲食店のクレーマーの映像を見て、あー書きかけのブログあったなって思いだしたんです。どんな事書いてたかなって。
時間が経って落ち着いた気持ちで内容を見直して書き上げました。
改めてこの件を経て、思ったことを書いてまとめると・・・
私はお客様に接するサービス係であり経営者ですので、対応を自己責任ですべて行う必要がありますし、また自分の権限で対応を決定できます。
お店に対するリスクを受け入れお客様に毅然とした態度を取りることも、クレーム内容によってはお客様にお詫びとして出費を決めることもできます。
クレーム対応について事前に様々な可能性を考え、対応策を練っておく必要があるなと思いました。
合わせて思ったのが、雇用者の立場になって考えると恐ろしいなと。
お客様からの怒声を受けるという直接的な心のダメージ、店の立場を悪くしてしまったという自責、自分の雇用を危ぶむ恐怖、さらに心無い雇用者側の人が「お客様を怒らせるなんて!」と、もし責めたりなんかしたら・・・
想像すると心が痛みます。
今は店員を雇う状況ではありませんが、将来店員を雇う立場になったとしたら、
クレームを受けないように店員の教育をすることも大事なんだなと思います。これは店の評判を守る意味と共に、店員を守るための教育なのでしょうね。
万が一の時は店員のケアに全力を尽くす経営者でありたいです。
幸い、お店を始めて厳しい叱責などを受けたことはほとんどありません。そのため、クレーム対応というものを身近なものと考えてこなかった節があるのが正直なところ。
だからと言って考えなしではお店としてダメでしょう。今後は将来考えうるクレーム対応に向き合っていきたいと思います。
今回はここまで。
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